
【この記事はこんな方に向けて書いています】
- なぜかいつも「ダメな人」ばかりを好きになってしまう
- 「もっといい人がいる」と頭では分かっているのに、今の関係を断ち切れない
- パートナーの「たまに見せる優しさ」にほだされて、普段の不満を忘れてしまう
- 自分の恋愛パターンを客観的に分析し、次こそは幸せな恋愛がしたい
- 恋愛における自分の意思決定に、自信が持てない
「この関係は、どこかおかしい」「このままじゃ、きっと幸せになれない」
心のどこかで警報が鳴っているのに、なぜかその人から離れられない。友人からは「絶対にやめておけ」と忠告されるのに、「でも、彼にも良いところはあるから」と、かばってしまう。
そんな経験はありませんか?その堂々巡りの苦しみは、あなたの意志が弱いからでも、愛情が深すぎるからでもありません。実は、私たちの脳に初期設定されている、ある種の「思考のバグ」が原因かもしれないのです。
この記事では、ノーベル経済学賞の分野にもなった「行動経済学」の知見を基に、私たちの恋愛を論理的に破綻させてしまう、恐るべき3つの「認知バイアス」の正体を暴きます。そして、その見えないワナから抜け出し、あなた自身の未来のために、より賢明で幸福な選択をするための具体的な思考法を、分かりやすく解説していきます。
私たちは、驚くほど「不合理」な生き物である
私たちは皆、自分自身のことを「物事を合理的に考え、論理的に判断できる人間だ」と思いがちです。しかし、近年の心理学や経済学の研究は、その思い込みを根底から覆しました。
行動経済学の創始者の一人であり、心理学者として初めてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは、人間がいかに「システマティックに(規則的に)不合理な判断を下すか」を、数々の実験で証明しました。つまり、私たちの「間違い」や「非合理な選択」は、ランダムに起きるのではなく、予測可能なパターン、いわば「思考のクセ」に沿って起きているのです。
この思考のクセのことを「認知バイアス」と呼びます。
お金や仕事の判断ですら、私たちはこの認知バイアスの影響を強く受けます。ましてや、嫉妬、愛情、依存といった複雑な感情が渦巻く恋愛においては、その影響は絶大です。あなたの恋愛がもし、いつも同じようなパターンでうまくいかないのだとしたら、それは運が悪いからではなく、この認知バイアスという「見えない敵」に操られているからなのかもしれません。
あなたの恋愛を蝕む、恐るべき認知バイアス(1)サンクコスト効果
まず一つ目は、不毛な関係から抜け出せなくなる最大の原因とも言える「サンクコスト効果」です。
サンクコスト効果とは?
サンクコストとは、日本語で「埋没費用」と訳され、すでに支払ってしまい、二度と回収できない費用のことを指します。そして、この回収できないはずの費用を「もったいない」と感じるあまり、損失が出続けると分かっているのに、その対象への投資をやめられなくなってしまう心理現象が、サンクコスト効果です。
「つまらないと分かっているのに、チケット代がもったいなくて最後まで見てしまう映画」などが、典型的な例です。
恋愛への応用
この効果は、恋愛において極めて強力に作用します。
「これだけ長く付き合ったんだから、今さら別れるなんて…」 「あれだけ尽くしてあげたんだから、いつかきっと分かってくれるはず…」 「結婚まで考えて、両親にも紹介したのに…」
これらの思考はすべて、サンクコストの罠にハマっている証拠です。あなたがこれまで費やしてきた時間、労力、お金、そして感情。それらはすべて、もう回収不可能なサンクコストです。
そして脳は、「今ここで関係を終わらせたら、これまでのすべてが無駄になる」という損失を恐れるあまり、「このまま続ければ、いつかプラスに転じるかもしれない」という不確かな未来に賭けてしまうのです。
対策:「ゼロベース思考」を導入する
サンクコストの呪縛から逃れるための唯一の方法は、「ゼロベース思考」です。
過去に費やした時間や労力は、いったんすべて無視してください。そして、今日がこの人との出会い初日だとして、自分にこう問いかけるのです。
「もし、今日初めてこの人に出会ったとして、これまでの過去が一切なかったとしたら、私はこの人と、これから先の人生を共に歩みたいと本気で思うだろうか?」
この問いに対する答えが「ノー」であれば、あなたの関係は、サンクコストによって延命されているだけの可能性があります。
あなたの恋愛を蝕む、恐るべき認知バイアス(2)確証バイアス
二つ目は、相手の本質を見えなくさせ、自分にとって都合の良い幻想を抱かせる「確証バイアス」です。
確証バイアスとは?
これは、自分が一度「こうだ」と思い込むと、その思い込みを支持する情報ばかりを無意識に探し集め、それに反する情報(反証)は無視したり、軽視したりしてしまう思考のクセです。
私たちは、自分が信じたいものを裏付けてくれる証拠を探すのが得意な一方で、その信念を揺るがすような事実は見たくない生き物なのです。
恋愛への応用
恋愛における確証バイアスは、非常に危険な働きをします。
「この人こそが運命の人だ!」と一度思い込んでしまうと、その人の優しい言動や、自分との些細な共通点ばかりが光り輝いて見えます。一方で、ギャンブル好き、時間にルーズ、平気で嘘をつく、といった決定的な欠点が見つかっても、「誰にでも欠点くらいある」「私といる時は違うから」と、その情報を過小評価してしまうのです。
「彼にも良いところはあるの」というセリフは、まさに確証バイアスの叫びです。自分の「この人を好きでいたい」という信念を守るために、必死で「良いところ」を探し出し、膨大な量の「悪いところ」から目をそらしている状態なのです。
対策:「悪魔の代弁者」を自分の中に持つ
確証バイアスのワナから抜け出すには、意識的に「反証」を探す努力が必要です。そのために有効なのが、自分の中に「悪魔の代弁者」を置くことです。
「もし、私が『この人は運命の人ではない』と主張する弁護士だとしたら、どんな証拠を法廷に提出するだろうか?」
このように、あえて自分の信念とは逆の立場に立って、その根拠となる事実(彼の問題行動、過去の裏切り、価値観の決定的なズレなど)を、客観的にリストアップしてみるのです。この作業は辛いかもしれませんが、あなたが無視してきた現実を直視し、よりバランスの取れた判断を下すための、重要なステップとなります。
あなたの恋愛を蝕む、恐るべき認知バイアス(3)ピーク・エンドの法則
三つ目は、辛い記憶をいとも簡単に美化し、不健全な関係に依存させてしまう「ピーク・エンドの法則」です。
ピーク・エンドの法則とは?
これは、ダニエル・カーネマンが提唱した法則で、私たちが過去のある出来事を記憶し、評価する時、その経験全体の長さや平均的な感情ではなく、感情が最も高ぶった瞬間(ピーク)と、それがどう終わったか(エンド)という、二つの時点の記憶だけで、全体の印象を決定してしまうというものです。
恋愛への応用
この法則は、いわゆる「アメとムチ」が巧みな相手との関係が、なぜか続いてしまう理由を完璧に説明します。
普段はぞんざいに扱われ、寂しい思いをさせられているのに、記念日には高級レストランでドラマのようなサプライズをしてくれる(強烈なピーク)。
大ゲンカをして「もう終わりだ」と思ったのに、最後に涙ながらに謝罪され、情熱的な仲直りをする(感動的なエンド)。
私たちの脳は、こうした強烈な「ピーク」と「エンド」の記憶に支配され、その間にあった数多くの辛く、退屈だった時間の記憶を、いとも簡単に忘れてしまうのです。「色々あるけど、やっぱりこの人が一番だ」という結論は、この法則によって生み出された幻想である可能性が高いのです。
対策:「線」で関係を評価する
ピーク・エンドの法則に惑わされないためには、「点」(特別なイベント)ではなく、「線」(日常)で関係性を評価する視点が必要です。
カレンダーや手帳に、その日の気分を簡単なマーク(例えば、幸せなら◎、普通なら〇、辛かったら×)で記録してみることをお勧めします。一か月続けてみて、◎や〇の数と、×の数を客観的に数えてみてください。
特別な「ピーク」の記憶に頼るのではなく、日々の平均的な幸福度を可視化することで、あなたの関係性の本当の姿が浮かび上がってくるはずです。
論理は、幸せになるための「ナビゲーション」である
ここまで、あなたの恋愛を破綻させる、いくつかの認知バイアスについて解説してきました。これを読んで、「なんて人間は不合理で、救いようがないんだ」と感じたかもしれません。
しかし、知ることは、絶望ではなく希望の始まりです。
自分の脳に、こうした「思考のバグ」があることを知ること。それは、あなたが運転する車のカーナビが、「この先、渋滞多発エリアです」「この道は、事故が起きやすいので注意してください」と、警告してくれているのと同じです。
認知バイアスは、あなたの感情という「エンジン」を止めるものではありません。感情は、恋愛を始めるための強力なエネルギーです。 そして、この記事で解説したような論理や知識は、あなたの感情という車が、道に迷ったり、事故に遭ったりしないように、目的地まで安全に導いてくれる「ナビゲーションシステム」なのです。
自分の思考のクセを自覚し、その上で「本当にこの道を進むべきか?」と一度立ち止まる。そして、自分の未来にとって、最も幸福なルートを主体的に「選択」する。
そのために、論理というナビゲーションを、ぜひ活用してみてください。あなたの恋愛は、もう二度と、同じ場所で立ち往生することはないはずです。
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